貨物自動車運送事業では、「物」を運送することをその目的としておりますが、旅客運送事業では、「旅客」を運送することがその目的になります。また、「旅客」を運送することをその目的にする運送事業にも、「有償・無償」、「乗合・貸切・特定」の区分があり、更に「貸切」には「乗車定員が11人以上・未満」の区分の違いがあり、それぞれの区分により許認可種別や運行の態様等に違いが生じます。

こちらでは、主に11人の乗車定員をようする「バス」を使用しての運送事業者許認可についてご説明して参ります。

事業種類の体系

車両区分 運賃収受 輸送の対象 車両定員 許認可種別 運行の態様等

事業用自動車
(緑ナンバー)

有償 不特定
(誰でも利用可)

乗合

  一般乗合旅客自動車運送事業
【法第4条許可:乗合バス】
路線定期運行
路線不定期運行
区域運行
貸切 11人以上 一般貸切旅客自動車運送事業
【法第4条許可:貸切バス】
 
10人以下 一般乗用旅客自動車運送事業
【法第4条許可:タクシー】
 
特定     特定旅客自動車運送事業
【法第43条許可:事務所送迎バス等】
 
自家用
(白ナンバー)
自家用有償旅客運送
【法第79条登録】
市町村運営 有償運送
公共交通空白地
有償運送
福祉有償運送
無償       道路運送法の適用対象外 市町村運営バス
ボランティア輸送等

「緑ナンバー」を取得して行う「旅客自動車運送事業」

一般乗合旅客自動車運送事業
「不特定の利用者同士がそれぞれに賃金を支払い(有償)、1台の事業用自動車に乗り合う形態で運送する事業」をいいます。
乗合バス事業では、大都市圏では増加傾向にある反面、地方都市では自家用車への依存が大きい他、大都市圏への人口流出等により減少傾向にあり、路線の減少や運休の一部実施をしながら路線維持に努めているというニュースを目にしたことが有ります。
しかし、近年の地球温暖化による環境問題、高齢化社会による交通難民者支援、そして慢性的な交通渋滞の緩和など、乗合バスが公共交通機関として社会的に期待されることは、なおも大きいものがあるように感じております。

一般乗合旅客自動車う運送事業では、従来は「路線定期運行」を指しておりましたが、利用者ニーズの多様化や効率的な輸送の実現に資するため、平成18年の法改正にあたり、新たに、「路線不定期運行」、「区域運行」の運行形態が区分されました。

  「路線定期運行
      決められた時刻に決められた路線を走行して、所定のバス停で乗降するもの
  「路線不定期運行
      決められた路線を走行して、所定のバス停で乗降するが、事前に予約があった便のみ、又は区間のみ運行するもの
  「区域運行
      運行ルートやバス停を設けず、指定エリア内で予約のあった箇所を巡回するもの

「区域運行」では、事業計画で営業区域を定めることになり、市町村の限られた地域を設定することになります。なお、「路線定期運行」及び「路線不定期運行」では、事業計画であらかじめ運行する路線を定めることになりますので、営業区域を意識することなく運行エリアを設定できます。

「一般貸切旅客自動車運送事業」
「団体による利用者が、賃金を支払い(有償)、事業用自動車を貸切って輸送する事業形態」をいい、乗車定員が11人以上の自動車(バス)を使用しておこなうものが「一般貸切旅客運送事業」となり、一般的には「貸切バス事業」がこの事業形態に該当します。
なお、乗車定員が10人以下の場合は、「一般乗用旅客運送事業」とされ、タクシーやハイヤー事業が該当することになりますが、こちらについては、「乗用旅客自動車運送事業」のコーナーで説明して参ります。

「一般貸切旅客運送事業」では、緑ナンバーの朱徳が必要となり、事業を始めようとするときは、地方運輸局長の許可を受ける必要があります。
許可を受けることなく貸切事業(白ナンバーのバスで営業行為)を行った場合は、重い罰則を受けることになります。

「特定旅客自動車運送事業」
「特定の者の需要に応じて、一定の範囲の旅客を運送することを目的とする旅客自動車運送事業」をいい、企業の従業員を駅と事業所の間を送迎するバスやスクールバス等が該当します。
運送需要者は単数であることが原則となり、一般の利用が認められず、また、特定旅客運送事業が行われることにより、当該区域内の他の一般旅客自動車運送事業の維持が困難になることが無いよう事業許認可上で審査基準がもうこられております。

特定旅客自動車運送事業では、原則としてその利用者は限定がされることになりますが、生活交通の確保などの観点から一般客などの「混乗」が認められる事例も多くあります。この場合では、交通事業者と必要な調整を行った上での許認可や届出を行うことが求めれれております。

自家用車両を用いて行う旅客運送

既存の旅客運送事業者では十分なサービスの提供ができない地域等においては、市町村やNPO法人等が主体となり、自家用車両を用いた有償運送ができる制度が設けられております。
なお、事業実施にあたっては、地域関係者による協議、合意を得た上での登録を受けて行うこととされております。


自家用有償旅客運送事業の形態と要件

事業形態は次の3区分となり、それぞれの事業主体が、指定される協議機関による協議、合意を得た上で登録申請機関(地方運輸支局または都道府県)で登録を受けて事業を行うことになります。
なお、登録有効期間は2年です。
 ① 市町村運営有償運送
   交通空白地で日常の用務を有する者(交通空白系)又は単独で公共交通機関を利用できない要支援者や要介護者等で予め登録を受けた者(福祉系)
   の移動の手段の確保をその目的としております。
    ◇ 事業主体・・・市町村
    ◇ 協議機関・・・地域公共交通会議
 ② 公共交通空白地有償運送
   公共交通空白地域の住民で予め登録を受けた者の移動手段の確保をその目的としております。
    ◇ 事業主体・・・NPO法人等
    ◇ 協議機関・・・運営協議会
 ③ 福祉有償運送
   単独で公共交通機関を利用できない要支援者や要介護者等で予め登録を受けた者の移動の手段の確保をその目的としております。

    ◇ 事業主体・・・NPO法人等
    ◇ 協議機関・・・運営協議会

協議機関(地域公共交通会議・運営協議会)設置の意義
 地域住民の生活に必要となる旅客輸送の確保を目的とする運送事業に関する協議を行う機関であり、当該機関による合意を図ることにより、通常の許認
 可事項等の緩和が図られています。なお、協議機関の設置については、それぞれに規約を定めることが必要となります。

   

道路運送法の適用を受けない運送形態

自動車を利用しての「旅客」の輸送では、道路運送法により「旅客運送事業」として行われることが前提とされております。しかし、過疎地などで市町村が所有するマイクロバスを利用して、地域住民を「無償」で送迎を行う場合など、道路運送法に位置付けられた事業に該当せず、許認可を不要とされるものもあります。この場合、送迎を行う市町村自らの責任において事業が行われることになります。

また、高齢ドライバーによる重大事故が社会問題となる中、社会全体で高齢者の生活を支える体制の整備が進められております。これを受けまして、平成30年3月に「道路運送法における許可又は登録を要しない運送の態様について」(互助による輸送)の通達が発出されるに至っております。

運賃及び料金の設定

近年の燃料費の増加や運転手不足に対応するためにも、何かと経営コストが嵩張ります。そこで、経営を安定させ持続可能なものにするためにも、運賃や料金の設定は非常に重要なものとなって参ります。

運賃及び料金の設定については道路運送法第9条に定められ、予め国土交通大臣による認可または届出を行う必要があり、その設定金額についても、自由に定めることができず、国が上限・下限を定めている場合にはその範囲以内で金額設定することが求められています。

運賃の申請
 運送事業等の種別により、予め次のような認可の取得、又は届出の義務が生じております。

 ①上限認可制運賃・・・・・一般乗合旅客運送事業(路線バス)
    国が、事業運営における適正な原価、利潤であることの判断に基づいて算出した上限の範囲以内で運賃をさだめ、予め国がそれを認可するもの

 ②届出運賃・・・・・一般貸切旅客運送事業、特定旅客運送事業
    旅客運送事業者が国に対してあらかじめ届出を行う必要のある運賃。
    また、一般貸切旅客運送事業では、関東運輸局により、「キロ制や時間制」により運賃の上限、下限が定められており、その範囲内で設定する必
    要があります。

 ③協議運賃・・・・・一般乗合旅客運送事業(コミュニティバス)
    関係者の合意のもと協議が調った運賃となり、その設定には合理的な基準が必要とされる。
    なお、協議運賃は「届出運賃」の一環と位置付けられております。

 ④自家用有償運送事業における対価基準
    当該地域における一般旅客自動車運送事業に係る運賃及び料金を懸案し、営利を目的としない妥当な範囲内で設定をする。
    なお、「協議運賃」の一環とされ予めの届出が必要となります。

旅客自動車運送事業に関連する各種法令

1.道路運送車両法の目的
  「この法律は、道路運送車両に関し、所有権についての公証等を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止その他の環境の保全並びに整備につ
  いての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とする。」(法第1条)

この条文からは、次の3つの目的が見えてくるのではないでしょうか。
自動車の所有権の公証⑴の規定により、自動車の使用状況の実態把握を可能にするとともに、動産である自動車に登録制度を設けることにより権利関係を明確とし、その結果、所有権得喪の第三者への対抗力をあたえることにより自動車流通の安定が図られることになります。
自働車の安全性確保等⑵の規程からは、自動車を所有する者の責任が明確に示されております。自動車文化が根付いた現代では、その自動車が引き起こす悲惨な事故のニュースが多く報じられてきています。特に大型バスが引き起こす事故では、大惨事として我々の記憶にも深く刻まれることになります。事故を引き起こす原因には様々なものが有ります。自動車を運転する者のベストな健康状態の維持に努めると同時に、整備の行き届いた車両管理に努めることも所有者の責任でもあります。
公共の福祉の増進⑶の規定では、社会全体の利益に資することが明記されております。我々の生活において「移動」は付きものです。そんな移動の手段として、多大なる利益がバス事業からもたらされております。我々の生活の一助として更なる活躍が期待されとります。

2.道路交通法の目的
  「この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。」
  (法第1条)

この法律では、道路(公道及び一部の私道)の安全確保及び円滑な交通を実現するためにそれを利用する者が負う義務が定められております。また、この法律により義務を負うものは歩行者を含めて道路を利用する全ての者が対象となります。特に自動車で道路を利用する者については、「自動車が道路を交通する方法」や、「自動車を運転する者が負うべき義務」が定められるとともに、違反行為に対する罰則が規定されております。
事業者においては、従業員による交通違反からもたらされる多大なる損失を被る可能性が有りますので、社員教育の場において、法令の周知及び遵守の徹底に努めていただく必要性があります。

また、法では運転免許区分が規定されており、旅客運送事業車両の運転で必要とされる第二種運転免許の取得を、「年齢要件として21歳以上かつ大型免許・中型免許・準中型免許・普通免許・大型特殊免許のいずれかを現に取得しており、その期間が通算して3年以上であることが要件となる。」と規定されております。
近年では、運転手確保に苦慮される中、採用後に第二種免許取得を支援される事業者も多いことと思われます。適性を含め、より慎重な運転手の確保が求められてきます。
なお、自家用有償旅客運送事業では、第二種運転免許証取得者による運転を基本としておりますが、運転手確保に苦慮されている実情を懸案して、一定の条件のもと、第一種運転免許取得者による運転を可能としております。